翻訳: 上平 哲<tez@kamihira.com>
Original: http://www.unicom.com/pw/reply-to-harmful.html

"Reply-To" 編集の有害性

An Earnest Plea to Mailing List Administrators

メーリングリスト管理者へのお願い


email のメッセージはメーリングリストから再配布される時にある程度の 処理を必要とします。最小限やらなくてはならないこととしては、 リスト管理者に対して直接バウンスメールがいくようにエンベロープを 書きかえる必要があります。メッセージが処理されている最中にリスト管理者 はメッセージヘッダのいくつかをmunge する機会が与えられます。

ヘッダを書き換える方法のいくつかは役に立ちます。たとえばループを 検出するための特殊なヘッダのようなものです。それ以外の書き換えには 疑問があります。それらのほとんどは間違っているか、危険なものです。 多くのリスト管理者はリストに向いたReply-Toヘッダーを追加 したいと感じるようです。この変換も非常にまずいことのひとつです。

管理者によっては、Reply-Toの追加はリストに対してユーザ が簡単に返信できようになり、またリスト自身の流量も増えると主張します。 このような恩恵はおかしなものです。さらにReply-Toは 危険なだけではなく実際に有害な影響を与えることがあります。もしReply-To の追加がよい考えだと思っているのなら、その気持ちを変えてもらいたい のです。

「最小限度の書き換え」の原則

Email 処理は非常に技巧的です。RFC-822 の、Standard for the Format of ARPA Internet Text Messagesを 機会があれば読んでみてください。47ページにわたる濃い内容のものです。 さまざまなソフトウェア工学と考慮が含まれています。しかし、それでもなお RFC-822は多くの例外的な状況についてはあまり規定されていません。 RFC-1123は、 通常Internet Host Requirementsドキュメントと呼ばれている ものですが、それはこの多くの例外的な状況についての追記であり、 数十ページにわたり、問題のある部分についての処置の方法がかかれています。 それから、MIME, X.400マッピング、そしてその他の標準や規約について かかれています -- それらの中には明示的に文書化されているものや 慣習としてのみ存在するものもあります。Email 処理は驚くほど複雑で 悪意のないように感じられる変更でさえ、非常に深刻で意図しない 結果になることがあります。

「最小限度の書き換えの原則」は問題を起こさないようにするための 良い規則です。それは、自分が正確には何をしようとしているのか、 なぜそうしたいと思っているのか、その結果は何を意味するか、を知る までは email ヘッダに対していかなる修正も加えるべきではない と言っています。書き換えの明確な理由を言うことができ、その処置が どのような結果を招くかを完全に理解するまでは、やるべきてはありません。

「最小限度の書き換えの原則」はこれから議論しようとしているような 種類の問題を避けるのを助けます。この原理は破ることのできる規則 ですが、そうする前に長い時間よく考えてみることで、大きな問題を 避けることができるでしょう。

それは何も付け加えません

Reply-To の書き換えは、通常のメーラを使うユーザには 何の恩恵もありません。人々は"リストに対する返信"を楽にしたくて Reply-Toヘッダを書き換えたいと感じますが、そんなことを しなくてもすでに簡単にやる方法があります。通常のメールプログラムは 二つの異なる"返信"コマンドがあるからです: ひとつはメッセージを 書いた人に対して直接返信するもので、もう一つはその人と、リストの購読者 全体に対して返信するものです。機能が貧弱なBerkeley Mailでさえ何十年も前からこの機能を持っています。

現在普通に利用されているメーラならどれもこの機能を持っています。 私はElm mailer を使っていますが、それには"r)eply" と "g)roup-reply" の二つの別の コマンドがあります。もしメッセージを書いた人に返信したければ、 "r"キーを押します。もしリスト全員に返信したければ、かわりに "g"を打ちます。簡単なことです。

ここでElmをとりあげたのは単に私が普通利用している メーラだったからです。この手の機能はElmに限ったものでは ありません。普通のメーラならどれでも備わっているものです。たとえば Pineメーラは"r"コマンドを使うと直接 "Reply to all recipients?" と聞いてきます。これ以上話しを簡単に するのは無理でしょう。

どんなメーラを利用するにせよ、添付しているマニュアルを読んで ください。古いメールシステムを使っていても、同じような 機能を見つけることができるはずです。それを見つけられれば 元の書き手か、リスト全体のどちらに返信するかを選ぶことができる はずです。メールヘッダに細工したからといって話しがより簡単に なるということはありません。

それは話しを中断してしまいます

普通のメーラを利用しているなら、Reply-To書き換えは なんの新しい機能ももたらさないことがわかります。実際には、それは できることを減らしてしまうのです。Reply-To の書き換えは"書き手に対する返信"という能力をなくしてしまいます。 書き換えによって、"書き手に対する返信" は "リストグループに対する 返信" と同じになってしまいます。新しいものは何も得られず、 できたことができなくなってしまいました。Reply-To書き換え は無害なのではなく、有害です。役に立つメールの機能を利用できなく してしまいます。

選択の自由

管理者によっては、"すべての返信はとにかくメーリングリストに 直接向けるべきだ" といってReply-To書き換えを正当化 しようとします。これは傲慢です。あなたは私がメッセージにたいして どのように応答するかを私に決めることを認めるべきなのです。 もしリストに対して応答したいと感じれば、"g"キーを使って Elmに対してグループ返信したいことを伝えればよいのです。 私的に返信するほうが適切だと思えば"r"を使ってその人に だけ送ることができます。メッセージをどう処理するかの自由を私に 残しておいてほしいのです。

メールの返信先が見つけられなくなります

ひとたびReply-Toヘッダーが書き換えられると、 メッセージの書き手に対して返信することができなくなります。 Reply-Toヘッダーは、なんとなく作られたものでは ありません。それはメールメッセージを使う送り手のために あるものです。このヘッダを踏みにじると重要な情報が失われて しまうのです。

送り手がReply-Toヘッダをつける良い理由があります。 送り手はメッセージのもともとの書き手(Fromヘッダ に現れる名前)ではないかも知れません。もともとの書き手 ではなく送り手に対して返信すべきである場合、送り手はReply-To ヘッダをつけます。あるいは送り手はメッセージが送られたアカウントから email を受け取ることができないためにReply-Toをつけて いるのかも知れません。メーリングリストメッセージにReply-To ヘッダーをつける正当な理由はたくさんあるのです。

Reply-Toがメーリングリストによって書き換えられると もともとの送り手がつけた内容は失われてしまいます。Reply-To 書き換えはメッセージの送り手に到達するのを不可能にしてしまうかも 知れません。

貧弱なメーラを救うことで、良心的なメーラに害を与えます

不幸にも書き手に対する返信とグループに対する返信を区別できない メールプログラムもあります。そのような貧弱なメーラを使っている人に ってはReply-To書き換えは役にたちます。リストに対して 直接返事を返すのが楽になります。

しかしこの変更は常識的なメーラを使っている人に害を与えます。 これは割に合わない取引です。インターネットのリスト管理者として 常識的なソフトを使ってもらうように勧めるべきです。ある少数の 人たちが返信アドレス全部をいちいち入力することによって、他のすべて の人が自分たちのメーラの機能を生かすことができるのなら、私は "それでいい"と思います。貧弱なメーラのおかげで普通のメーラが 害をこうむるべきではありません。

最小の操作の原則

比較対照: Reply-Toの書き換えをするメーリングリスト、 しないメーリングリストに対して返信する場合に(Elmユーザ としての)私がやる方法は以下です。

		Case One:		Case Two:
動作		書き換えなし		書き換えあり
=============	=====================	=====================

全員に返信	"g"キーを打つ		多分"r"キーを使いますが、
					メッセージの別の受け手が
					いる場合は"g"を使うかも
					知れません。

書き手のみに	"r"キーを打つ		もともとのメッセージヘッダ
返信					を見て、送り手のemailアドレス
					を書き出し、"r"キーを打ち、
					ヘッダ編集メニューを選び
					現在の To: の値を消し、
					送り手の完全な emailアドレス
					を入力します。そして
					修正したアドレスが
					Reply-To書き換えによって
					消されていたのではないことを
					祈ります。

やはり、あなたは別の方法でこの機能が実装されたメーラを使うのが好 みかも知れません。その場合でも簡単だと思います。私は一つ目の 箱のやり方をとります。そのほうが確実です。

奇妙な振る舞いを最小にするという原則

Elmで"r"キーを打つと、メッセージの 書き手に対してメールが返信されます。Reply-Toを書き換えると 場合によっては私が期待しているのとなにか全く違うことが起きることが あります。これはあなたのメーリングリスト特有の動作を生み出してしまい、 それは潜在的に奇妙な動作がおきてしまう危険を増やします。私は人間工学 について学んだことはありませんが、この奇妙さが、堅牢なユーザインターフェース の構成要素にならないことくらいはわかります。

私的なメッセージがしばしばReply-To書き換えをしている メーリングリスト上で不特定多数の人に送られることがあります。 「奇妙な振る舞いを最小にする」という原則を侵したときには こういうことがおこります。

被害最小の原則

それが起きたときの被害について考えてみてください。Reply-To ヘッダを書き換えず、リスト購読者が間違ってリストにメールを送るかわりに 書き手に私信として送ってしまった場合、彼らはメッセージのその後の様子を 見て、"あれ、リストに送ろうとしたのに。すみませんが私のためにメールの コピーを転送してもらえませんか?" これは困ったことですが、実際ときどき 起こります。

しかし、間違ってプライベートなメールをリスト全体に送ってしまったら どうなるでしょう? メールが送り手の上司の健康状態や、同居している 恋人に関するものであったとしたら、"あれ"では済みません。できることと 言えば、(笑)マークのたくさんついたメールを送信するか(うーん)、 キーボート上で猫が暴れていたんだと言うか(だいぶいいかも)、新しい 仕事や、部屋を探すために求人広告のたぐいを読み始めるか(これが一番 ありそう)といったところでしょう。

Reply-To書き換えは、破滅的な失敗に到るかも知れません。 この手の被害を作るためにReply-Toの書き換えをする必要は 確かにありません。ちょっと指をすべらせるだけで十分です。 "奇妙な振る舞いを最小にする原則" を犯すと、実際このような不幸を招く ことになるのです。思慮深いリスト管理者はそのような極端な被害を 招くような道を作るのを避けるでしょう。

そして最後に...

まだ気持ちが動いているなら、最後のお願いをするのを許してください。 私はElmメーラ開発チームで貢献しています。ユーザコミュニティー からのたくさんの要求や要望を聞きます。一番よく聞かれる機能は何だと 思いますか? 第三の返信コマンドです -- メールにある Reply-Toヘッダを無視するというものです! どうしてそんなことを 言ってくるか見当がつきますか? Reply-Toヘッダの書き換えで あなたの購読者に何かのサービスを提供していると考えているなら、それは バカです。そうではなく彼らを惨めな状態にしているのです。

ここまで読んでもなお、リスト管理者によっては "いやいや、そんなに 悪いものじゃないよ、だいたい私の購読者はそれが好きなんだよ!" もしそうだとしたら、それは多分メーラにある"グループ返信"機能を 使うことを知らないからです。メールヘッダに対してメーリングリスト ゲートウェイ上で諸悪の根源を生み出すかわりに、彼らを教育する 努力をするというのはどうでしょう?

まとめ

多くの人々はReply-Toヘッダを書き換えたいと考えて います。それによってリストに対する返信が楽になると信じており、 リストの流量が増えるからです。そうはなりませんし、とても貧弱な アイディアでもあります。Reply-To書き換えは以下の問題を おこします:

おまけ

不思議に思っているのでしたら、ええ、私もかつてReply-To 書き換えはうまいアイディアだと思っていました。しかし、そういった 病気からは回復しました。

私は email リストを始めたとき、すべてのメールを書き換えていました。 ある日間違って私的な返信をリスト全体に送信してしまいました。 リスト所有者がリストの適切な理由方法を知らなければ、購読者を 安心させることはできないでしょう。私は次の日に書き換えをやめました。

全体として、それは非常にうまく動いています。ええ、場合によっては 誰かが間違ってグループに返信したいと思うときに、そのメッセージを 書き手にたいして直接返信してしまうことがあります。しかし、ほどんどの 人は、メールシステムがどのように動作するかを非常に速く習得し、 その柔軟性を受け入れているように見えます。 さらに私的な返信が間違ってリスト全体に送られてしまうというのを ほとんど聞いたこともありません。


Chip Rosenthal
<chip@unicom.com>

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